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-落書き

 長い年月の間に落書きで埋め尽くされた壁。吉田寮をはじめて訪れた者がもっとも鮮烈な印象を受けるのは、この落書きだらけの壁ではないだろうか。いつ頃描かれたのか、「××粉砕」のような学生運動の高揚を感じさせるものから、大書された「一日一善」のように完全に意味不明のものまで、90年分の落書きが吉田寮の壁を満たしている。さすがに個人の部屋からは消されてしまうことも多いが、トイレや廊下など共有スペースの落書きは歴史を感じさせる。明らかに20年以上は経過していると思われるものも多い。吉田寮という場所が、受け継がれ、住み継がれていく空間だということを一番教えてくれるのは、実は落書きの存在なのかもしれない。

 

 しかし落書きを残すのは昔の寮生とはかぎらない。見かけの古さに気をとられると裏切られることもある。落書きの「作者」は、ふとしたきっかけで判明することもある。毎日目にする廊下の落書きが、実は相部屋相手の描いたものだったということもめずらしくない。とある寮生は、いかにも昔のものらしい書体と内容で、新しい落書きを「捏造」してしまった。生きた場所である吉田寮は現在進行形でちゃっかりと落書きを増やしつづけているのだ。

(高田敦史)

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