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暗室

 吉田寮にはなぜか暗室がある。現在では使われておらず、ただの空き部屋となっている。寮生でも滅多に立ち入ることはなく、下手をすれば存在を知らない者もいるほどだ。いわば、知る人ぞ知る、吉田寮内の秘境といえる場所のひとつだろう。

 

 暗室は建造当初からあったわけではない。20~30年前の寮生らが作ったものだといわれている。よく観察すれば、隣の部屋から仕切られた簡素な壁もいかにも手作りらしく見える。団体交渉や機動隊との衝突など、外に出せない運動関係の写真を現像するのに使われていたのだという。何度か写真好きの寮生が復活させようとしたが、あいにく実現した者はいない。現像液の処理がむずかしいのだそうだ。

 

 あまり大きな声ではいえないが、かつてこの部屋に家出少年がこっそり住みついてしまったこともあった。ほとんど使われず、誰も訪れない部屋ということで、隠れるのに都合がよかったのだろう。おどろくべきことに、1、2週間の間、誰にも気づかれずに寝泊まりしていたらしい。何の気なしに暗室を開けた寮生がいなければ、そのまましばらくの間は住みつづけていたかもしれない。

高田敦史)

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